「読書」を変える、EDUPUB・オープンアノテーション

1.いよいよ「EDUPUB TOKYO 2014」の開催

9月16日(火)、17日(水)、IDPF、JAPET、JEPAの共同主催で国際ワークショップが東京において開催される。
http://www.jepa.or.jp/edupub/jp.html

出版とWebが融合したのが「EPUB」。その融合した世界に「教育」を招請するのが、EDUPUBのワークショップ。昨年夏から毎週電話会議で世界中の関係者が議論をしてきたが、節目での確認と面談の会議がすでに3回(Boston(2013年 10/29~30)、Salt Lake City(2014年 2/12~13)、Oslo(2014年 6/19))開催され、今回東京が4回目。

webと出版の一体化
(「EDUPUB報告(EPUB 3/HTML5の見地から」村田 真 氏 2013年12月4日 より )

フランクフルトでの中間発表に向けての一里塚のひとつ。

基本は専門家同士の会議を公開するもので、二日間はすべて英語。

一日目
日時:2014年9月16日(火) 13:30~17:00
場所:品川 日本マイクロソフト社
言語:英語(通訳なし)

・IMSの組織とこれまでの活動の紹介
・QTI、LTI、Caliperなどの解説

二日目
日時:2014年9月17日(水) 終日
場所:品川 日本マイクロソフト社
言語:英語(通訳なし)

・三機関(IDPF/W3C/IMS)のすり合わせ状況の報告
・学年ごと/科目ごと//国や地域ごとの討論

・この日の午後の部に、田村さん、村田さんの講演と質疑応答やパネルが予定されている。またアジアからの要望内容を確認するような時間も設けられている。

三日目に関連セミナーで、JEPA主催の日本人向けの説明会がある。

webと教育の一体化
(「EDUPUB報告(EPUB 3/HTML5の見地から」村田 真 氏 2013年12月4日 より )

従来EDUPUBが取り上げてきたイッシューとしては上記以外に

・アノテーション
・ウィジット
・アクセシビリティ

がある。

東京での議題から外れている、ということは、かなり合意形成がすすんでいるのでは、との推測が一応成り立つ。

とりわけ、アノテーションはもともと、W3Cの中にワーキンググループが活動していて、その内容をEDUPUBの討議に取り込むといったスタンスが強かったものだった。

私は、アノテーションが「EPUB」規格に取り入れられることが、電子書籍や読書のありかたを大きく変えるのでは、とひそかに考えている。

では、そのアノテーションとは何か。すこし説明をしてみよう。

(QTI、LTIについては、下記をご覧ください。
セミナー備忘録:電子教科書のドリルをどうする!? | 詩想舎の情報note https://societyzero.wordpress.com/2014/07/28/00-40/
セミナー備忘録:電子教科書のドリルをどうする!?(2)~「教育の再設計」とEDUPUB | 詩想舎の情報note https://societyzero.wordpress.com/2014/08/04/00-48/ )

host edupub tokyo 2014

 

2.紙の書籍での注釈と参考図書一覧

実用書や専門書には脚注や脇註がついている。付加的な説明が、本文の文の流れを乱さないようにしながら、読者のより深い知識への要求に応えたり、著者の意図を明確にするために加えられる。

該当箇所の、同じページの下部(脚注)や、横(脇註)に付加的説明があると読者は便利だが、本の制作過程には大きな負担となる。そこで、章末や本の最後に集めることもよく行われる。

([039339]用語解説[き] http://support.justsystems.com/faq/1032/app/servlet/qadoc?popup=true&QID=039339 より)

通常、該当箇所に番号、記号が振ってあって、註の側にも対応する番号、記号が付してある。それで読者は同定が可能になる。

「同定」は重要なので、紙の書籍であると、この番号、記号の相互関連性を点検するのは校正作業の重要な仕事のひとつとなる。

さてこのとき、他の本からの引用や、他の本の情報がこの「註」に盛り込まれることもある。それに関連して、実用書、専門書で、「註」と同時によく準備されるのが「参考図書一覧」と言える。

この「参考」には、著者がその本を執筆するにあたって参考にした、という場合もあれば、さらに詳しく知りたいと読者が思うのに備え、手引きとして作成される「参考図書一覧」もある。

いずれにせよ、ここで本と本とが結び付けられることになる。執筆者の知識体系の中にある、本と本の関係についての地図が「参考図書一覧」。

実はこの地図。執筆者の頭の中では、本のタイトルとタイトルを結び付けているのではない。ある箇所、ある意味が、別の本のある箇所、ある意味と関連付けられている。これは図書館で分類され、本が整理され並べられている以上の、とてもダイナミックな意味の相関図の現出と言っていい。しかしいかんせん、紙の本ではそこまでの具体化はできず、ただ一覧表が準備されて、お終いとなる。

この「註」、「参考図書一覧」がEDUPUBで大きく変貌を遂げる可能性が出てきている。電子書籍の機能性を大きく塗り替える技術として読み替えられる可能性に道が開かれるかもしれないのだ。

co-host edupub tokyo 2014

 

3.ニコニコ動画化

EDUPUBで構想されているのは、言ってみれば、「註釈」のニコニコ動画化だ。

ニコニコ動画は、つい最近(2014年5月)KADOKAWAグループと提携した川上量生さんがつくったサービス。インターネット上での動画共有サービスで、音声付きの動画を自由に投稿・閲覧することができるほか、動画に対して投稿されたコメントが、動画上に映画の字幕のように表示されるのが最大の特長。

コメントはレイヤー化されていて、画面下に記入されるのではなく、映像上に重ねて表示される。しかも冒頭から何分何秒の位置で追加されたかという情報が記録されており、映像中のシーンを特定してコメントがつけられる。そのため疑似的に視聴者同士が感想を話し合いながら映像を視聴する感覚が楽しめる。「疑似的に」とは、テレビのように本当にその時刻に同時に視ている必要がないことを指す。(註:この「非同期性」が持つ意味については、『アーキテクチャの生態系――情報環境はいかに設計されてきたか』に詳しい←こういうのが執筆者による「註釈」の典型=本のタイトルを指し示すのみ/一方向性)

つまり、

・特定できる
・オープン(それゆえの双方向性、多重性)

がポイント。

「註釈」のニコニコ動画化とは、だから

・本のある箇所、ある意味を特定できる
・著者だけでなく、読者も「注釈」することができる(双方向性、さらには多重性の獲得)

を意味する。

EDUPUBは、電子教科書の議論なので、とりあえず念頭に置いているのは、先生。まずは現在先生方が使っている「教師用指導書」、それに「補助教材」。さらに学習者用の「教科書ガイド」。

教科書の種類
電子教科書の種類
(電子教科書の国際標準:EDUPUB2報告会 http://www.epubcafe.jp/egls/epubseminar36 より)

これらはいずれも単独の電子書籍になるコンテンツだが、突き詰めて考えると、「検定教科書」の特定の箇所に「註釈」をつける構造を持っている。であるなら、電子教科書のデータに対し、「註釈レイヤー」をかぶせることで、必要な機能を発揮させることも十分可能になる。

つまり、「教師用指導書」「補助教材」「教科書ガイド」のレイヤー化。

次に「学習指導要領」が電子書籍化した段階を想定したとき、レイヤー化された「註釈」と、「指導要領」の該当箇所をリンクで結ぶこともできるようになるかもしれない。

・註釈レイヤーイメージ図
(日本よっ!これがOpen Annotationだっ!! | すちゃらかコーダー http://code.kzakza.com/2013/08/open-annotation_data_model/ より)

EDUPUBでは、こういったテーマが「アノテーション」の項目として議論されている。

こういったアイデアは昔からいくつかあるが、たとえば、いま一番ホットなのは、「ジーニアス」。始まりはラップで、「歌詞の一部分にファンや歌手本人が意見や内容を解説する注釈を付けられるサービス」としてスタート。それがいまや、「世界のあらゆる知的情報に注釈を付けることを目指(し)、すべてのウェブサイトや文書に世界中の人が注釈を付ける」サービスへ展開しようとしている(●注釈サービスサイト「ジーニアス」 http://www.sankeibiz.jp/business/news/140715/bsj1407150500002-n1.htm )。

ただいずれも多額の開発コスト、アプリ制作コストが必要。注釈の規格化、標準化で、こういった機能が電子書籍の「あたりまえ」になる近未来があるかもしれないのだ。

support&spo edupub tokyo 2014

 

4.アノテーションが拓く、電子教科書、電子書籍の未来

ところでもうひとつ。「註釈」のニコニコ動画化が促す発想の転換。

電子教科書によってたかって、みんなが書き入れをする、ということは、教科書とは別にノートを用意する必要がなくなることを意味していないか。

現在電子教科書の議論でよく耳にすることで、「書き込みができるようにしてほしい」というのがある。日本だと、すぐに端末の機能でそのニーズを組み上げようとする。しかし端末で対応すると、「特定」はできても、「オープン」にならない。

ビューアで対応してくれて、クラウド上に記入内容が蓄積されると、どこからでもアクセスできて、「どこでも・いつでも学習」が実現するうえに、「オープン」に道が開く。

生徒間での議論や、先生と生徒との質疑応答にも使われていくだろう。

「どの章、どの節で生徒がつまずきやすいか」がわかって、明日の授業の設計に役立てられるようになるのかもしれない。

一方現在、いわゆるソーシャル・リーディングについては、それ専用のプラットフォームが開発されている。そこでは本と切り離された形で、本の感想や、要約、レコメンデ―ション、引用を、記入し、公開、共有する方向で、ユーザーが活動している。

ただここで、「オープン」は実行されているが、箇所や意味の「特定」はできていない(「引用」サイトは別)。

しかしそれが標準化された電子書籍そのものの規格として登場するなら、ソーシャル・リーディングは、箇所と意味を特定しながら、Web全体に広がっていくことが可能になる。その結果本と本との関係性が可視化されていき、大きな「意味の地図」ができあがっていくのかもしれない。

あくまで規格の標準化が実現し、実装が伴うなら、ではあるが、EDUPUBでアノテーションが議論されていることには、電子書籍が「学習」ばかりでなく、さらに「読書」そのものを変えていく未来がかかっていると言っていいだろう。

読書3.0
(電子書籍と図書館 120619Ver.3 – SlideShare より)
http://www.slideshare.net/sasazamani/ver3-13621924


[追記20160825  EPUB for Education | ちえのたね|詩想舎 http://society-zero.com/chienotane/edupub  ]

◆関連クリップ
●日本よっ!これがOpen Annotationだっ!! http://code.kzakza.com/2013/08/open-annotation_data_model/
よくまとまっている論考。

●EPUB 3 Structural Semantics Vocabulary(日本語訳版) http://blog.imagedrive.jp/epub/spec/epub301/epub301-vocab-structure.xhtml#h_notes
EPUB3での、「註」関連の説明箇所。

●渋沢栄一記念財団の「錦絵絵引」データベース http://ebiki.jp/
「絵引」=渋沢さんの孫の一人が考えられたアイデア。例えば家を作るための話し合いをしている錦絵の人物にカーソルを合わせると、それそれの立場の説明が出たり、置かれている道具の説明が出たりする。これを実現するのに、専門家が参加。20枚くらいの画像に1,000以上の注釈を付与した。言葉から画像を検索することも可能。

●EDUPUB | 詩想舎の情報note https://societyzero.wordpress.com/edupub/

 


◇関連クリップ~『詩想舎の情報note』より

●注釈実装と注釈サービスの拡大、EPUBリーダーでの実装、および注釈の標準化への動き。 http://blog.cas-ub.com/?p=7077
注釈の標準化はEDUPUBでも大きなテーマ。W3Cが先行、検討している分野でもある。注釈のデジタル化・標準化により、「オープン」「share」の発想が「注釈」に加味されると、「注釈」が再定義される可能性も。つまり著者が体系だったコンテンツへ加える付加的内容から、読者による気づき、メモへ、また学習者のnoteにまで広がり、コンテンツへ新たな発見を加えることや、注釈経由コンテンツ(本)が発見される新しいパスを開拓することにもつながっていく。「読書3.0」に現実味。

●注釈サービスサイト「ジーニアス」 http://www.sankeibiz.jp/business/news/140715/bsj1407150500002-n1.htm

始まりはラップ。「歌詞の一部分にファンや歌手本人が意見や内容を解説する注釈を付けられるサービス」としてスタート。それがいまや、「世界のあらゆる知的情報に注釈を付けることを目指すという。すべてのウェブサイトや文書に世界中の人が注釈を付ける」。最大の特徴は、マイクロコンテンツ化が一段と進む、という点。ブログにコメントをするのは、記事単位。ところが「ジーニアス」を使えば、自分がインスパイアされた文章、フレーズ、単語にコメントをつけられる。ウェブブラウザのネットスケープの創業者の慧眼と投資判断。

●アップル、米書籍レコメンドベンチャー「BookLamp」を約15億円で買収 http://iphone-mania.jp/news-37670/

「レコメンド」は「注釈」の亜種。そしてここでもAI。「BookLampは、顧客がこれまでに読んだ書籍の自然言語分析に基づいて、顧客に電子書籍のレコメンデーションを生成するサービスを手掛けている」。同サービスによって、Appleは電子書籍のPandoraを目指すのではないか。

(以上 「詩想舎の情報note」 2014年8月4日 https://societyzero.wordpress.com/2014/08/04/00-43/ より)

●epub-type=”noteref”を使った脚注ポップアップ http://densyodamasii.com/?p=255
<div>要素に注釈部分を記述するのがポイント。こうしておけば、脚注ポップアップに対応しているiBooksでは内容がポップアップ表示され、対応していないその他のビューアでは通常のリンクとして動作する。気を付けないといけないのは、「ポップアップウィンドウ内ではCSS指定は無視される」こと。また「注釈部分のファイルサイズは30KB程度を目安に」。

(以上 「詩想舎の情報note」2014年6月21日 http://bit.ly/W9OPXB  より)

●和本と電子書籍 第2回 電子書籍 E-Book の規格 Epub とサイバー図書館 http://www.book-seishindo.jp/seikei_tanq/tanq_2013B-02.pdf
今日に続く、つい昨日の書籍を、ただ電子化しただけではつまらない。もう一つ向こうの昨日、「かつてあり、今はないもの」をデジタル化で息を吹きかえらせる、そんなことができないか。たとえばアノテーション。江戸時代には息づいていた「書き入れ(注釈)」を共有する読書空間。

●アノテーション付加による知識共有型電子書籍の提案 http://bit.ly/1isIvmY
実際の「書き入れ」事例20点を分析して、21個の書き入れ目的を抽出、これを4分類している。そのうえで、知識共有型電子書籍、アプリ化の試み、さらには学生を使っての実証まで。

●EPUB標準化関連活動のアップトゥデイト http://blog.cas-ub.com/?p=6159
索引、注釈(著者でも、読者でも)のデジタル化について、実装を念頭に置いた議論が進んでいるEDUPUB。2014年2月には米国ソルトレイク市で、6月には東京で詰めの会議がもたれ、年内規格化が展望されている。

(以上 「詩想舎の情報note」2014年1月24日 https://societyzero.wordpress.com/2014/01/24/00-81/  より)

●どのWebページにも注釈や付箋紙, 強調表示のできるDiigoがデザインを一新 http://jp.techcrunch.com/2013/08/20/20130819diigo-a-tool-for-highlighting-and-adding-sticky-notes-to-the-web-gets-a-facelift/
「そもそもわれわれは、検索エンジンを作ろう、と思ったわけでは
ない。最初に作ったのは、アノテーションのためのランク付けシス
テムだった。Webをアノテーションしたい、と思ったのだ。ユーザが
どこかのページを見てアノテーションボタンをクリックすると、ほ
かの人たちがそのページについて言っている優れたコメント*見
られるようにしたかった」。

(以上 「詩想舎の情報note」2013年8月23日 https://societyzero.wordpress.com/2013/08/23/00-80/ より)

★Bounce – A fun and easy way to share ideas on a webpage  http://www.bounceapp.com/
Webサイトのスクリーンショットに、任意の箇所に注釈をつけてシェ
ア出来るツール。Web上の相手に的確に「ここの、これ」を伝えるの
に便利そう。

(以上 「詩想舎の情報note」2013年4月19日 https://societyzero.wordpress.com/2013/04/19/00-79/ より)

電子教科書――何が普及を妨げるのか? http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1203/12/news067.html
「電子書籍でできるとすでに知っている要素(埋め込み動画やフル
カラーの図版、検索および注釈の容易さ、教科書を通じてほかの学
生や教授との交流が可能なオンラインソーシャル読書プラットフォ
ーム)をすべて電子教科書に盛り込むことが、電子教科書を利用す
る学生を増加させる唯一の手段である」。

(以上 「詩想舎の情報note」2013年3月1日https://societyzero.wordpress.com/2013/03/01/00-78/ より)


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【電子書籍】『情報note|知のパラダイムシフト』
http://landingeducation.businesscatalyst.com/index.html

 


「デジタル化」への真の理解なしに、仕事の評価も、ビジネスの存続もない。
さあ、お役立てください、『情報note|知のパラダイムシフト(Kindle版)』を。
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