『21世紀の資本論』と「イスラム国」の兵士

スティグリッツの指摘

米国人ジャーナリストを処刑したのはイギリス国籍の若者である可能性がある。「イスラム国」の活動に参加している兵士の国籍が話題になっている。中東の若者もいる。しかしそれと同様に先進国の若者も、「イスラム国」の兵士に多数参加していることが、欧米の政治リーダーや市民に当惑と動揺を与えている。

このことと、ノーベル経済学賞受賞(2001年)であるジョセフ・E・スティグリッツ氏の次の指摘は、その底に相通じるものがあり、不気味だ。

いわく、「世界の人口の5%を占めるアメリカには、世界中の囚人の4分の1がいる」。

これはニューヨークタイムズ誌でスティグリッツ氏が、ピケティの『21世紀の資本論』を論評した時のコラムに出てくる話(下記、◆関連クリップ)。

中産階級への「上がり」を夢見て努力する若者、その中には移民もいるだろう。彼らの希望を無残に打ち砕く社会、それが現在の米国だ、とスティグリッツ氏は、憂慮している。

しかもカネで買われた民主主義が社会の制度として、「労働者が受け取れるはずのお金」を蒸発させ、格差を固定させている。その結果、「若者の人生が両親の所得と教育によって、露骨に決められてしまう」米国に成り果てていることを非難している。

「周辺」のシフト

西欧は16世紀あたりから始まった幾多の試行と長い思考の果てに、為政者を縛るものとしての「憲法」と「民主主義」、そして国民国家、福祉国家の仕組みを作った。ところがカネがその仕組みを内側から腐らせている。福祉国家理念と市場主義のメカニズム、その間をつなぐ民主主義の仕掛け。この資本主義をコントロールする仕組みが、そのグローバル化で破綻したのだ。思いもかけない現象の始まり、という形をとって。

周辺を中心が収奪する資本主義のメカニズムをうまく管理する方法論を、戦後世界は磨いてきたはずだった。20世紀半ば過ぎまでは比較的それはうまく機能しているかにも見えた。当時の格差、南北問題は時間をかけながらゆっくり解消していく。ある意味、BRICSの台頭は、その成果でもあった。

ところが、BRICSの台頭を演出したグローバリズムは、周辺を中心が収奪する資本主義のメカニズム、というときの「周辺」を、先進国の「中」に作りだすことになった。これが21世紀、現段階の粗々の見取り図だといっていいだろう。

不平等、格差の問題は、南北間格差から、先進国内格差の問題へと変貌を遂げた。

未来への絶望が暴力に訴える道へ若者を走らせる。一国内であればそれは刑務所へという筋書きで終わる(「世界の人口の5%を占めるアメリカには、世界中の囚人の4分の1がいる」)が、グローバル化の現在、「イスラム国」志願兵となって中東に集結している、のでは、との連想はそれほど荒唐無稽なものではないだろう。


◆関連クリップ

●アメリカ経済を考える「格差問題に関する米国の論点(5)~「21世紀の資本論」とリベラル派の焦り~」 http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=1316
米国の政界での論争の様子を整理。「リベラル派が「中間層を守ることができる現実的な政策を提示できなかった」現在の米国でも、中間層以下の底上げに関して注目されているのは、むしろ保守派陣営の「改革派保守*」であり、最低賃金引き上げ等のリベラル派の提案に、新味が欠けるのは否めない」。

○ジョセフ・スティグリッツ―格差は必然的なものではない 『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』—「ニューヨークタイムズ・セレクション」より http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40123
資本主義に内在するメカニズムというより、むしろ民主主義、とりわけ米国の政治制度の欠陥に対するいらだちへ展開する論考。「最新版の資本主義はニセモノの資本主義だ。その根拠は、今回の大不況への我々の対応に現れている。そこでは、利益が私物化されたにもかかわらず、損失は社会が受け皿となった」。「アメリカの政治制度は、金銭によって荒廃させられている。(略)資産家たちは、政治的手段によって、必ず収益率を高く維持できる結果を生むようなルールを設計しそれをやってのけているのだ」。

●米国の格差拡大と長期停滞論~『21世紀の資本論』から『負債の家』へ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/us140826.pdf
『21世紀の資本論』は、所得の成長は資本の成長に敵わない、と指摘した。その構図を跳ね返すものとして、貯蓄(時間の保蔵)と借金(時間の前借り)がありえ、世紀の変わり目に住宅ローン推進という形で後者が米国では政策化された。しかしそれは『負債の家』として、未来の時間を奪う形で、米国社会を重苦しく覆っている。

●『21世紀の資本論』が描く 米国経済の状況 http://net.keizaikai.co.jp/archives/11633
「全くその通りのことが、200年前ではなく、いまこの時点で米国で起きている」、という実感が発刊のフランスより米国で話題になっている主因。

●「イスラム国」、米国人記者をまた殺害か-処刑ビデオ公開 http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052970204091304580130522420028654

 


◇関連クリップ

ピケティ用語集 http://bit.ly/1vjytXR

ピケティ勉強会(4) 実は、ピケティはこうも言っている。 http://society-zero.com/chienotane/archives/24

(まとめ)ピケティ氏の『21世紀の資本論』(1) | 詩想舎の情報note https://societyzero.wordpress.com/2014/08/23/00-67/


 

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