ピケティ勉強会(2) 書籍の特徴~学会重鎮が絶賛する「電話帳」「漬物石」

(※文章中に出てくる「#(記事タイトル名)」は、「ピケティ勉強会(1) (まとめ)ピケティ氏の『21世紀の資本論』 」にその出典元の経済雑誌名やURLを明記、それを辿ると内容を確認できます)

分厚い

トマ・ピケティ(Thomas Piketty)の『21世紀の資本論』、フランス語の原著は2013年9月、その英語版が2014年4月、The Belknap Press of Harvard University Pressから刊行された。英語版タイトルは『Capital in the Twenty-First Century』で初版部数は原著5万部と英語版7万部だったが、アマゾンサイトでベストセラーとなり、約一ヶ月で在庫切れとなり増刷が続いている(電子版もあり、こちらは日本のAmazonサイトでいまでも購入可能)。日本でもみすず書房が年内刊行を目指し、山形浩生氏が翻訳を担当、編集校正の真っ最中だ。

中身もさることながら話題はまず、「なぜこれほど分厚い本が?」というもの。

英語版でいうと全体が685頁(本文577頁+巻末注77頁+目次・索引等)に及び、読み通すのに体力と集中力を要する。「電話帳のよう」と表現する人もいるほど。

経済界学に身をおく評者、大学関係者からは「しかし、実際に読んでみると、大変読みやすく、面白かったというのが印象です。疑いもなく「もっと読まれるべきベストセラー」だと言えるのではないでしょうか(#齋藤潤の経済バーズアイ)」とする声もある。「数式を抑えた記述、バルザックなど文学作品の引用などもあいまって人気に(#CAPITAL in the Twenty-First Century が示す世界 )」なっているようだ。

たとえば、評論家中野剛志氏は2013年12月にフランスの家族人類学者エマニュエル・トッドと面談した。トッドはその時、新自由主義の思潮が米国において退潮の兆しがあるとしながら、「鞄から分厚いフランス語の本を取り出して見せながら、「この本は、実に興味深いよ」と言った。その本こそ、現在、その英訳がアメリカで一大センセーションを巻き起こしている『21世紀の資本論』」だった、としている。

「だが、こうしたファッショナブルなイメージから何か勘違いして、この大著をl購入すると、単なる漬物石として利用するしかなくなる羽目に陥るだろう(#「21世紀の資本論」 新自由主義への警告)」とも。

それが証拠に、「違うちがう、嘘うそ」と手を横に振っているのは、当の翻訳者山形浩生氏(#ピケティ『21世紀の資本』:せかすから、頑張って急ぐけれど、君たちちゃんと買って読むんだろうねえ……)。

本書は確かに難解な用語をあまり使わず読みやすい文体ではあるが、あくまで生真面目に書かれた学術書。とりわけデータ整備、統計分析の本。教養書、啓蒙書、実用書の類と異なり、数字の成り立ちや言葉の定義に関して細かい議論が展開される。エッセンスだけ取り上げるとあっけないくらい単純だけどね、とは山形浩生氏の弁。

いろいろ細かい統計の話が基本になるんだよ。第一章の最初とか、国民総所得=国民総産出の説明が何ページも続いて、倒れそうになります。富をどう定義し、格差は何で見て、それをどんな統計をもとに、何を考慮してやって、こんなもんだいもあるけれどそこはこう補い、ここんとこはこう推測して、あーでこーでこうひねって、ここでこう揃えてうーたらかーたら。
ページが進んでも同じことを繰り返しあっちからもこっちからも検証してるけど論点はずっと同じで、共訳者は「ページが進んでいるはずなのにずっと同じページにいるようで、うなされる」

ちなみに『21世紀の資本論』は今後31の言語に翻訳される。すでに韓国では9月25日に刊行され著者のピケットが講演を行った。

後で触れるが、「話題騒然」なのは米国(英語版は刊行後三ヶ月で40万部売れたがその数字の70%は米国)。原著の足元フランスでは「なぜ米国でこれほど評判を呼んでいるのか、売れているのか」、その事象そのものが「話題」になり、増刷がはじまったとも言われている。

だから日本で米国ほど売れるかどうかは、未知数。国の経済状況、社会の情勢、もう少し内容と関連したポイントでいうと、「所得」の構成、とりわけ経営者層のそれが、日米でだいぶ異なるからだ。

なぜ大著なのか

実はこの本、学会世界の間隙をついた異色の本。米国の中で学会で話題になった、とりあえずの理由はここにある。すなわち本書は、「所得と資産の歴史」の本なのだ。

つまり、経済学者にとってはあまりに歴史的すぎ、歴史学者にとってはあまりに経済学により過ぎている、逆に言うと、アカデミズムの世界にある「隙間」を埋めた本。それが『21世紀の資本論』。

・三世紀にまたがり、200年という長期間のデータを整備した(中には「古代から現代までの資本収益率、成長率と今後の見通し」という超長期のデータも)。
・データの対象が多岐にわたっている(米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、オーストラリア、日本、イタリアさらにスウェーデンなど22か国)

本は1年ほどで執筆されたが、実はここに至る前15年ほどの、世界の学者仲間による地道な活動の成果の上に、本書がある。データ整備には日本、米国、欧州、インド、南米など30人以上の多くの学者仲間がかかわっている。たとえば日本のデータ(原著195ページ)には米国のエマニュエル・サエズと森口千晶教授(一橋経済研究所)の協力があった。

ピケティはアンソニー・アトキンソン(英国:オックスフォード)、エマニュエル・サエズ(米国:カリフォルニア州立大)らとともに、世界の研究者のネットワークを組織、資産と収入(税金)のデータを集め、エクセルシートに集積する作業を進めてきた。

このデータは公開されている。WTID(The World Top Incomes Database)。

(データ収載22ケ国:フランス、ドイツ、オランダ、スイス、イギリス、アイルランド、ノルウェイ、スウェーデン、フィンランド、ポルトガル、スペイン、イタリア/アメリカ、カナダ/オーストラリア、ニュージーランド/アルゼンチン/日本、インド、中国、シンガポール、インドネシア。
データ整備中の国:南アフリカ、モーリシャス、タンザニア、デンマーク、コロンビア、マレーシア、ウルグアイ)

ピケティはデータ収集のための組織化を指揮しただけでなく、税務統計と国民所得計算から長期的な所得格差の指標(富裕層の所得占有率)を推計する手法を編み出し、まずフランスのデータでその成果を発表、評価を得た。

税務統計は比較的古い時代に遡れる。たとえば明治政府は1887年西欧に先駆け所得税を導入している。フランスでは1914年から所得税が課されている。しかし長期にわたる経済統計はなかなか整備されていないのが実際。「米国の経済学者クズネッツは1950年代に州の税務資料を通じて米国の所得データを集めた。1913年から48年までの米国における格差の変遷を研究し、50年代に成果を発表している。だが、こうした研究がこの後に広がることはなかった」。

それを組織力と推定方法の確立により、米日独仏英の五か国を中心に、実に200年以上の長期にわたり相互に比較可能なデータセットとして、近現代史を通した資産・所得の変遷を一目で見られる形に公開した。この地道な作業に対して主に学会重鎮たちから大きな賞賛の声が送られている。

「これだけでノーベル賞に値する」(ローレンス・サマーズ)
「ピケティはわれわれの経済的議論を一変させた。この本によって社会の見方や経済のあり方が変わる」(ポール・クルーグマン)
「格差拡大についての断片的な説明はこれまで幾つかあったが、この問題を包括的・理論的に説明したのはピケティが初めて」(ロバート・ソロー)

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